皆さんこんにちは、名もなき医師です🧑⚕️突然ですが、あなたは正しい情報を信じられていますか?
医師として患者と日々接する中で、明らかに間違った情報を信じている人が一定数存在します。そういった方々にはいくら真実や正しい情報を提供しても、彼らが信じていることを訂正することは難しいです😳
効果がないことが判明しているサプリメントに固執したり、細菌感染症ではないのに抗生物質を希望したり、とても高額な怪しいがんの治療を受けていたりなど事例は様々です。
一体なぜこんなことが起きてしまうのでしょうか?心理学的な観点から『人はなぜ正しい情報より、自分に都合の良い情報を信じてしまうのか』について解説していこうと思います‼️
確証バイアス
確証バイアスとは自分の信念や仮説を裏付ける情報ばかりを集め、反対の証拠は無視・軽視する傾向のことです。
簡単に言うと、自分が信じたい情報を集めて、都合の悪いデータや意見は無視したり見ないようにするということです。
具体例:高額な自費治療を受けているのでその治療を信じたい
僕の患者さんでもstageⅣの末期患者で全身ボロボロの方がいました。その患者さんは高齢でしたが、高額なNK細胞療法という治療を自費診療でされていました。その額は1回当たり数十万円から百万円くらいするものです(実際にはその医院の価格設定によります)💦
NK細胞療法は現時点で科学的根拠がかなり限られており、エビデンスレベルはDというデータが多いです。日本臨床腫瘍学会においても「効果・安全性において確立されたエビデンスがないことを患者に明示した上で実施されるべき」とされています。
その患者さんは全身にがんが転移してかなり疲弊しており血液検査では臓器障害を示す結果で、胸に水も溜まって息をするのもしんどい状態でした。残りの命はもって1ヶ月、短ければ1週間程度だろうなという僕の感覚でした。

患者家族に現状を説明したところ、「今すぐNK細胞療法をしてください」と言われました。
NK細胞療法自体を否定するつもりはありませんし、自由診療なので治療を受けるのは患者の自由です。しかし病院は健康保険で動いており、保険の範囲内でしか診療できません。ましてや僕が勤めている病院にはNK細胞療法なんてやっていません😅
そもそも最早がんが治るとかいうタイミングではなく、残された時間をどう過ごすかという段階に入っていることをお伝えしました。今までの治療を否定するつもりは全くないのですが、医師として患者の現状は正しく伝えないといけないですからね😳
もちろん言葉には細心の注意を払いましたが、家族には怒られました。どうやらがんの完治を目指しているようです🤔自由診療でNK細胞療法をしている主治医を信頼しており、その主治医に色々と相談の電話をかけていました。
病院にいる間は何回も時間をかけて説明しましたがご家族には「血液検査は良くなってきたと言われていたんです」「そんなはずがありません、間違えているのではないですか?」などと色々言われました。
僕は医師として客観的に正しい情報を提供したつもりでしたが、家族はもちろん普段診療している主治医を信じています。結局その主治医の頼りで、とある病院に転院していかれました。
そりゃ主治医や自分達の今までの治療を信じたいですよね。だって今までおそらく1000万円以上は払っていたでしょうから。その医院の口コミを見るとぼったくりなどと散々な書かれようでしたが🤣
皆さんこれが確証バイアスです。
NK細胞療法が最新の医療と診療所の院長に言われて、がんが治ると信じて多額のお金と時間をかけてきたのです。いきなり命はあとわずかと言われて強い抵抗感があるのは当然の反応です。
このように確証バイアスにとらわれてしまうと、本当に正しい情報に目を向けることができなくなってしまうのです。
認知的不協和の解消
次に我々の日常でも溢れている認知的不協和の解消についてお話します。
認知的不協和とは、自分の信念や行動が矛盾したときに生じる不快感のことです。この不快感を解消するために人間は都合の良い理屈を作り出します。
こんな経験はありませんか?検診で「要精密検査」と診断が出ても「まあ大丈夫だろう」と思い込んだり、健康に悪いとわかっていてもタバコを吸い続けたりといったことです。
具体例:タバコを正当化する患者
タバコが健康を害することを知りながら喫煙を続ける患者はたくさんいます。タバコが健康に良くないことを説明するとほとんどの方はそれを理解しているのです。
タバコが健康に悪いと知りながら、自分がタバコを吸っているので、認知的不協和が生じます。
これを解消するために自分の中で都合の良いようにみんな落とし込んでいるのです。たくさんの認知的不協和の解消をしている事例に出会ってきましたので一部ご紹介します。
1タバコを吸うことでストレス解消になる
これはニコチン切れによる離脱症状をタバコを吸うことにより一時的に緩和しているだけです。英国公衆衛生庁(Public Health England)の2015年の報告でも
喫煙者は非喫煙者よりもストレス・不安・うつ症状が高い。
喫煙をやめた人は、精神的な幸福度が向上する傾向がある。
禁煙後6週間でストレス・不安のレベルは大きく低下した。
というようにストレス解消効果は禁煙する方が結果的に高いことがわかっているのです。しかしタバコを吸ってストレス解消になると思い込んでいる方々はそれらに目を向けなかったり、事実を受け入れられないような心理となっています。
2祖父は毎日タバコを吸っていたが90歳まで生きた
親や祖父が喫煙者だったが長生きしていたから大丈夫という考えですね。これも自分への立派な言い訳です!
世界的にみて喫煙者は非喫煙者と比較して平均で10年前後寿命が短くなるというのが科学的なコンセンサスです。
日本の厚生労働省の研究(多目的コホート研究 JPHC Study)でも40〜69歳の男女9万人以上を対象にした追跡でも
男性:喫煙者は非喫煙者より平均8年寿命が短い
女性:喫煙者は非喫煙者より平均10年寿命が短い
という結果が出ています😌
肉親1人が長生きしたからといって自分も健康で長生きできるとは限らないのです。
ちなみに僕の祖父も喫煙者でしたが90歳近くまでピンピンして生きていました。そういう人も中にはいます。しかしもし喫煙していなかったらと考えると、100歳まで生きられていた可能性もあるのです😳
とはいえ自分1人で禁煙することはかなり難しいので禁煙したいという人はこちらの記事も参考にしてみてください!健康を維持するために絶対にすべきこと1選!
必要な能力:クリティカルシンキング
それでは正しい医療を受けるために必要な力は一体なんなのでしょうか?僕が思うのはクリティカルシンキングつまり批判的思考です。
特に医療の世界では情報の真偽が命や人生満足度に影響を与えることがあります。上記のような確証バイアスや認知的不協和の解消に陥らないためにはクリティカルシンキングが必要なのです。
クリティカルシンキングとは?
クリティカルシンキングとは単に批判したり疑うことではなく、「与えられた情報を鵜呑みにせず、その根拠・信頼性を吟味し自分で判断するという思考法」です。
簡単にいうと「本当にそれ正しいの?」と問い続ける姿勢です。

現代では情報がたくさん飛び交っているので、フェイクニュースもたくさん存在します。あの先生が言っていたから大丈夫とかではなく、自分で考える力です。
もちろん認知的不協和の解消のように自分へのバイアスも考慮しなくてはいけません。
クリティカルシンキングは現代で最も必要な重要な思考スキルとも言われており、情報がたくさんある中で正しい情報を選び抜く能力が大切なのです。
この時代をより良く生き抜くために
先ほどの
ちなみに僕の祖父も喫煙者でしたが90歳近くまでピンピンして生きていました。そういう人も中にはいます。しかしもし喫煙していなかったらと考えると、100歳まで生きられていた可能性もあるのです😳
これについてもクリティカルシンキングと言えるでしょう。単に「祖父が喫煙者で長生きしたから自分がタバコを吸っていても大丈夫」と認知的不協和の解消をするのではなく、もし喫煙していなかったらもっと健康で長生き出来た可能性にまで思考をめぐらせているということになります。
全員が高いレベルでクリティカルシンキングをすることができればこの世で最も困る職業は詐欺師だと思います🤣
皆さんも自分で考える力を身につけて正しい医療を受けるだけでなく、人生のあらゆるところで活用して頂ければと思います✌️
本記事の内容は医療専門職としての知見に基づいていますが、すべての読者に当てはまるわけではありません。個別の診断や治療は、直接の診察に基づいて行われるべきです。
名もなき医師:日本救急医学会専門医 現在は整形外科に所属し救急と両立しながら奮闘中🔥
所属学会:日本救急医学会 日本整形外科学会 日本整形外傷学会